IntoFree 代表 西川美優氏 講演会

2月7日、IntoFree代表の西川美優さんにお越しいただき、VRハードウェアの流通の話や自分がVRと関わるに至った話、自身のコンプレックスとどう向き合って克服したかなど、様々なトピックを深く掘り下げてお話しして頂きました。

ハードウェア流通の仕組み

はじめに、以前HTC NIPPONVRハードウェアの流通に関わっていた経験をもとに、普段は知ることのできないハードウェア流通の仕組みについて教えて頂きました。

「なんでAmazonで買える機種と買えない機種があるの?」
「なんで在庫切れになったら再生産まで時間がかかるの?」
「送料無料とそうじゃ無いサイトがあるのはどうして?」

など、私たちエンドユーザーが疑問に思っていることについて、流通という大きな視点から詳しく解説して頂きました。

特に興味深かったのがデバイスの需給予測について。
新供給デバイスは基本的に需要の予想がつきにくいため、小売店は保守的な発注をします。工場はそれに基づいて四半期・1年などの長期的な生産計画を立て、生産・流通に取り組みます。ここでもし新デバイスが爆発的に売れ、想定外の需要が発生したとしても、生産計画を簡単に変えることはできません。なので供給が追いつかず、長期間在庫切れになるという事態が発生します。

これが実際に起こったのがVIVEトラッカーが発売された時。
小売店は当初「VIVEトラッカー…?何それ売れんの…?」という考えで保守的な発注をしましたが、VRアバター界隈から「フルトラックを実現させるには1人あたり7個トラッカーが必要だ!」と想定外の需要が殺到。すぐさま在庫切れになり、しばらく品薄の状態が続きました。もちろん小売店側はすぐに再生産を要求するわけですが、工場側は長期計画に基づいて部品集めやパーツ組みをしているので、すぐには増産できず。結局供給が回復するまで3、4ヶ月かかり、その間フリマサイトなどでトラッカーの値段が高騰するという現象が発生しました。

消費者側から見ると「なんでこんなに売れているのにずっと在庫切れなんだ」と思うかもしれませんが、背後ではこのような力学が働いていたのです。

なんでVRの世界へ?

また、西川さん自身のキャリアについてのお話もしていただきました。
大学卒業後、ファーストキャリアとして「特にやりたいことが無く、初任給が高かった」と言う理由でコンサルを選択。学生時代から得意だったプログラミングを活かしシステム構築で活躍しました。
しかしその後、キャリアアップのためにアメリカ留学を決意。学費を借金して2年間の留学生活を送りました。
そして帰国後スクウェア・エニックス・ホールディングスに入社。その時訪れた展示会でVIVEのプロトタイプに出会い、「次はVRが来る!」と確信。そうして2016年にHTC NIPPONへ入社し、VIVE事業の日本責任者として、ハードウェア流通やマーケティング、コンテンツ開拓などに携わります。
そして2019年、自身の手でVRスタートアップIntoFreeを創業。今に至ります。

夢がないコンプレックス

学生時代から常に「夢がないコンプレックス」に苛まれてきたという西川さん。キャリアを積み上げていく中で、自身のやりたいことを模索し続け、VRの世界にたどり着きました。
自身のキャリアを振り返り、「夢がないコンプレックス」と向き合うために以下のことが大切だといいます。

・3年以上先は何が起こるかわからない
・やりたい事がなくても焦らない
・自分に投資する
・目の前のことを真面目にやる

やりたいことを探しながらも、焦らずに常に自分を磨き続ける。常に世界にアンテナを張りつつ、目の前の課題を対処していく。
夢がなくても気にしないこと」が大切だと西川さんは語ります。

さいごに 大事にしていること

最後に、西川さんがキャリアの中で大事にしていることについて教えて下さいました。
やはり大切なのは、「〇〇大学の西川さん」「〇〇社の西川さん」ではなく「株式会社西川美優」として世の中にどう価値を提供するかだと言います。
これからますます「個」が重要視される時代に、組織の肩書ではなく、如何に個人として自分をブランディングできるかが大切になってくるということです。

バリバリのキャリアウーマンとしての西川さん、しかしかつて私達と同じく悩み多き大学生だった西川さん、そしてVRで日本を牽引する西川さん。多様な側面から深いところまで掘り下げて私達にお話して下さいました。

いち人間として非常に尊敬できる素晴らしい方でした。この度はUT-virtualに講演に来ていただき本当にありがとうございました。 

(文: Atsuhiko Isoguchi 写真:Takuhiro Nishida 構成:Mari Kotani)